シン・ソンロク「僕は悪役と負け犬役、2つのライセンスを持っている(笑)」

デビュー15年目のシン・ソンロクは、スペクトルが広い俳優だ。先日韓国での放送が終了したMBC「死んでこそ生きる男」では、小心者の負け犬カン・ホリム役で愉快にコミック演技を披露した。これまでKBS 2TV「空港への道」(2016) で演じた無口なパク・ジンソクや、SBS「星から来たあなた」(2013) のソシオパス(社会病質者) のイ・ジェギョンとは違う雰囲気が漂っていた。さらに、今年5月からミュージカル「あしながおじさん」でロマンチックなジャーヴィス・ペンドルトン役を演じ、舞台に上がっている。様々なジャンルとキャラクターを行き来するシン・ソンロクの演技観ははっきりしている。ある作品が終わるまで、ただそのキャラクターで生きるというチェ・ミンスとは異なり、演技する瞬間だけそのキャラクターになり、カットサインが出たら元のシン・ソンロクに戻ると述べた。

――「死んでこそ生きる男」を終えた感想は?

シン・ソンロク:ホッとしたけど名残惜しい。12部作だったが、撮影中は本当に情熱を注いだから短くは感じられなかった。楽しかった。(チェ) ミンス先輩から学んだ点が多い。コ・ドンソンプロデューサーは、これまで会った演出者とは違う感じだった。「死んでこそ生きる男」は色々な面で新たに刺激を受けた作品だ。

――コ・ドンソンプロデューサーは、何がどう違ってた?

シン・ソンロク:プロデューサーは、とにかく呼吸がすごく速い。賢く計算し抜いて、必要のないシーンは撮影しない。必要な場面だけ早く撮影するから、最初はかなり戸惑ったけど後は良かった(笑)

――いわゆる“ビョンマッ(呆れてばかばかしく感じる)”エンディングで、視聴者の反応はまちまちだ。

シン・ソンロク:カン・イェウォンさんと笑い話でこんなことを語った。「温かい結末で(後で) 視聴者の記憶の向こうに消えてしまうくらいなら、波紋と共に永遠に記憶されるほうがましだろう」と。ハハ。(結末について) 納得はいかなかったが、ドラマの色に合わせてエンディングまで独特だった。“良い”とも“悪い”とも言えないが、一番「死んでこそ生きる男」らしい結末だったと思う。

――結末のせいでシーズン2を望む視聴者が多い。シーズン2が作られたら出演する?

シン・ソンロク:まだ正式にシーズン2については耳にしていない。もし出演を提案されたなら、シーズン2でまたどれ程取り留めもなくデタラメな事が起こるのか、見なきゃ分からない(笑) 結構、俳優同士のチームワークが良かったので、シーズン2が作られるなら肯定的に考えてみる。

――仮想のアラブ国家を描く過程で、イスラムを皮肉していると波紋を呼んだが。

シン・ソンロク:ドラマチームを代表してお詫び申し上げる。無知だった。無知が言い訳にはならないということを知っている。波紋を呼んだシーンに対し、重ねてお詫び申し上げる。

――劇の序盤、カン・ホリムは妻を差し置き、他の女性と浮気した。不倫に対する拒否感はなかった?

シン・ソンロク:初めてシノプシス(あらすじ) を読んだときは、ホリムが浮気をするという設定よりも、ある日突然、大金持ちがやって来るという事件そのものに視線が行った。不倫は起きてはならないことだが、「死んでこそ生きる男」はドラマではないか。むしろ、ホリムが他の女性に心を揺らしたり嘘を重ねる設定は、面白い要素になると思った。僕がシノプシスで把握したホリムは純粋で臆病、自分一人では何も決められない人だった。だが放送序盤は、ホリムを“醜い人”として見る視聴者が多かった(笑)

写真=シン・ソンロク

――出演作品を決定する際にキャラクターよりも物語の大枠を最初に見る?

シン・ソンロク:ドラマはシノプシスのまま展開されはしない。だから全体の話を事前に知ってから決定することはできない。代わりに、僕たちが視聴者を説得することができる話なのかを見る。ちなみに一人でする作業ではないので、一緒に演技する俳優が誰であるかも見るし、演出者も見る。

――「死んでこそ生きる男」は説得できる話だったと思う?

シン・ソンロク:容易ではなかった。素材自体がちょっと呆れる内容だったでしょう。訳の分からないまま始まり、あっけなく終わった(笑)「死んでこそ生きる男」はユニークな作品だ。俳優は常に新しい演技に挑戦し、新しい悩みを持つべきだと思うが、そんな面で「死んでこそ生きる男」は合っていた。

――シン・ソンロク流のコミック演技が輝いていたという評が溢れた。

シン・ソンロク:僕が俳優仲間に冗談みたいに言う言葉がある。「僕はライセンスを2つ持っている。一つは悪役、もう一つは“負け犬”だって(笑) 演劇とミュージカルでは、ホリムのように落ちこぼれだったり、天真爛漫な役をたくさんやって来た。しかし視聴者は、どうしてもSBS「星から来たあなた」(2013年) で演じた、ソシオパスの僕を覚えている感じだった。怖そうな俳優が、ある日テレビに馬鹿みたいに出てくるから驚くしかなかったのかも(笑)

――チェ・ミンスとの息はどうだった?

シン・ソンロク:劇中で毎日いじめたり、いじめられる関係なので、先輩は本当に可愛がってくれた(笑) ミンス先輩はリアクションが凄く上手かったので、受け入れる立場としては演技しやすかった。先輩は、常に良い台本をもっと面白くできるディテールさを準備して来る方だ。

――間近で見たチェ・ミンスはどんな人?

シン・ソンロク:僕みたいな者がどう評したらいいか分からない。感じたのは、社会に妥協しない人だということだ。まだ子供のような純粋な面も多い。俳優なら、先輩のように純粋な魂を持っていてこそ、自分が持つモノを表現できるんだなぁと思った。

――学んだ点とは?

シン・ソンロク:一度ミンス先輩がこんな話をした。撮影に入る前からメソッド演技をしているようだった(笑)「ソンロク、本物の演技とは演技をしないことだ」って。先輩は作品を決めた後、キャラクターが自分のもとに来るまで1ヶ月間、家から出ないんだと。そのためか、ドラマが終わったらすぐに、ミンス先輩の目つきも穏やかになった。最終回でひげを削ってきて、伯爵のしゃんとした姿がなくなって僕一人で寂しく感じていた(笑) 実は僕は正反対なんだ。演技する瞬間だけそのキャラクターになる。カットサインが出たらシン・ソンロクに戻る。そうしてこそ、キャラクターがある状況で感じる一番最初の感情を、僕の演技に映すことができるから。

――チェ・ミンスのアドバイスが自分の演技に変化を与えたと思う?

シン・ソンロク:もちろん先輩の言葉はしっかり受け止めながらも、僕は僕の思う通りやる(笑) 愛情を持って良い助言をして下さるのだからありがたい。先輩とは不思議な縁がある。僕が俳優志望だった時に、ドラマ「砂時計」(1995) を演出した故キム・ジョンハクプロデューサーが、ドラマ「大望」(2003) の公開オーディションを開いた。何千対1の競争率で、世子(セジャ:王の跡継ぎ) の役割を選ぶもので、そこで僕が選ばれた。15回かな、台本読み合わせをしたが、最終的にはそのキャラクターがチョ・ヒョンジェ兄さんになった。後で作品が終わって、プロデューサーに「何故、役割を変えたのですか」と尋ねたら、プロデューサーが「君は王子の顔ではない」と言われた(笑) そして「私は君を『砂時計』のチェ・ミンスみたいにしようと思って選んだんだ」と言われた。「チェ・ミンスみたいにするんだ」と聞いていた僕が、他の作品でチェ・ミンスの先輩と共演する事になった。一人で鳥肌モノだった。この話を飲み会の時に先輩に言ったが、酒に酔っていたから反応は覚えていない(笑)

写真=シン・ソンロク

――カン・イェウォンとの息は?

シン・ソンロク:良かった。白紙のような女優だ。互いに演技を合わせることにおいて抵抗感はなかった。たまに自分のスタイルが強すぎると、僕は何もすることができないが、(カン) イェウォン姉さんは相手俳優の意見をよく受け入れ、特有のスタイルもよく受け入れてくれるタイプだった。

――カン・イェウォンもチェ・ミンスも、芸能界では“不思議ちゃん”として挙げられる(笑) どうだった?

シン・ソンロク:大変だった(笑) 冗談ですよ。結構個性が強い方ではあった。2人ともああだこうだといい合いながらも、よく合った。実の兄妹のように見えたりした。

――2人の個性派俳優の間で、自分のバランスを合わせなければならないという重みはなかった?

シン・ソンロク:そんなことより、自然にそれぞれの役に臨んだ。それぞれの位置で、シーンを面白くするために集中した。そんな意味で、わざわざ首を絞めたり叩く必要もないが、実際に殴ってくれた先輩たちに感謝している(一同笑)

――演技じゃなく本当だったの?(笑)

シン・ソンロク:お2人のお陰であざも出来た。(二の腕を触りながら) 今もまだあるはず。カン・イェウォンさんのパンチでもあざが出来て、ミンス先輩はアクセサリーを着用した手で僕を殴るから、またあざが出来た。だけどそんなシーンを視聴者は一番楽しんでくれた。満足している(笑)

――周囲の反応はどう?

シン・ソンロク:僕のフィルモグラフィーの中で一番いいという言葉をたくさん聞いた。

――「星から来たあなた」の後、悪役のイメージへの負担はなかった?

シン・ソンロク:全くなかった。そのイメージが今まで続いてきたことも知らなかった(笑)「死んでこそ生きる男」が放送された後に感じた。むしろ悪役のイメージのおかげで、「死んでこそ生きる男」の中のコミック演技を楽しんで見てくれたようだ。僕にとっては徳となった。

――ロマンチックコメディの男主人公をしてみたいという思いは?

シン・ソンロク:もちろん提案されるなら、ロマンチックコメディもしてみたい。上手く演じられると思う(笑) ただし、ロマンチックコメディでも、カッコいいキャラクターより面白いキャラクターを演じたい。室長、本部長とかじゃなく、想像を壊す事をしてみたい。

――ミュージカル「あしながおじさん」の大邱(テグ) 公演を控えている。映像演技と舞台演技を行き来するのに、大変な事はない?

シン・ソンロク:ドラマ一遍、ミュージカルや演劇一遍を交互にしている。わざとそうした訳ではない。一つの作品が終われば、他の作品の提案が入ってきて、その中でやってみたい作品に出演したんだ。混乱する部分は全くない。舞台でもカメラの前でも、演技は同じだ。ドラマを撮影する時も、フルショットでは舞台のように大袈裟に演技しなければならない。ただし演劇やミュージカルは、全体がフルショットに繋がるため、伝達力を高めようと気を使う。話し方、発音、発声にもっと集中する。

――デビュー15年目だ。これまでスランプに陥った事は?

シン・ソンロク:29歳のときかな、一度来た。「僕は演技もできず、発展もせずいつも同じ所に立っていて、映画に出てくる先輩俳優のように演技したいのに、チャンスは来ないし、好評より酷評のほうが多いし。僕は演技に才能がないのに何故こんな事やってるんだろう……」って、そんな考えをうつ病のように患った。でも、そうしているうちに「僕が幸せになろうとこの仕事をしているんだから、他の人よりちょっとくらいできなくても幸せに生きよう」と決心した。心構えを変えたら、むしろ演技ももっと良くなった。

――気持ちを切り替えたキッカケとは?

シン・ソンロク:特別なきっかけはない。自分自身との戦いで自ら答えを出して乗り越えた。その後から仕事をするのがちょっと楽になった。僕はA型だから(笑)、以前まではよく振り返ってみたり、自分自身を卑下したりしたけど、今はそれもかなり減った。まだまだ行き先は遠いが、今は一段と余裕を持てるようになった。

 記者 : ソン・イェジ、翻訳 : 前田康代、写真 : チョ・ジュンウォン