「愚行録」妻夫木聡“ハ・ジョンウさんは兄のような存在…また一緒に演技をしたい”

写真=風鈴の音

映画「ウォーターボーイズ」から「ジョゼと虎と魚たち」「悪人」「東京家族」「黒衣の刺客」「怒り」まで煌めく作品にはいつも輝く妻夫木聡がいた。彼は子供のように無邪気な笑顔と涙で、観客のハートをぐっと掴んだ。そしていつからか自身の隠された横顔に当たり、新しい姿で観客を緊張させた。これもまた、心地のいい不慣れさだった。映画「愚行録:愚かな者の記録」では痛ましい殺人事件の真実を探る記者・田中役を演じた。今月17日に韓国で公開される予定であり、ソウル小公洞(ソゴンドン)ロッテホテルで妻夫木聡に会った。

――「愚行録」はベネチア国際映画祭をはじめ、海外有数の映画祭の公式招待作でしたが、当の日本では制限的上映で残念でしたね。

妻夫木聡:韓国で挽回できるだろうと思います。韓国の方々にたくさん見てもらいたい。この映画の真価が十分に評価されることができるところは韓国です(笑)。

――特にあなたを待っている韓国のファンにとっては嬉しい公開だと思います。

妻夫木聡:まず、僕の作品を韓国の観客のみなさんに披露することができて本当に嬉しいです。僕が考える韓国映画の長所は、繊細な心理描写です。そのような部分が際立つ作品がたくさんあります。そのため、この作品に描かれている繊細な部分を韓国の観客はわかってくれるだろうと期待しています。

――「愚行録」を選択するにあたって最も惹かれた点は何ですか?

妻夫木聡:決定的な理由は石川慶監督です。監督がヨーロッパで作り賞も得た短編映画を見ましたが、とても素晴らしかったです。それで必ず一緒に撮影してみたいと思っていました。従来の日本映画はほとんど、非常に熱い温度が感じられますが、監督が描いた映像は冷たく感じられました。そんな雰囲気が「愚行録」という作品にもよく合うと思いました。そして原作の小説もすごく面白いものでした。弱い人間の存在を体感できる作品でした。それで出演を決めました。

――原作の小説が映画化されるにあたり、一番変わった点を挙げるとすれば何ですか?

妻夫木聡:最も大きな違いは、映画では田中という人物が直接登場するということです。小説では、田中という人物の実体がほとんど現れません。原作はインタビュー形式なので、インタビュー対象の言葉、すなわち物語によってストーリーが展開されます。映画を見ている観客は、僕が画面に登場する瞬間に田中というキャラクターはこういう人か、という印象を受けると思います。キャラクターとして理解させなければならない役割なので、それを表現するのが簡単ではありませんでした。

――時々田中は感覚を失った人のように見えます。カメラが彼の顔に集中する時の薄暗い深みが感じられました。田中を演じるのに参考にしたことはありますか?

妻夫木聡:まず脚本を読み、はたして記者たちはどのような取材をするのか、新聞社に直接足を運びました。記者たちに直接取材をしたり……。でも、特に参考にした対象はありません。自然にそんな表情が、そんな演技が出てきました。

――田中は話し手ではなく、主に聞き手として登場します。回想を通じて個々の描写が表れる他のキャラクターより、色々描きにくいキャラクターだったと思いますが。

妻夫木聡:難度の高い演技ではありました。すべての台詞を意味深く伝えようとすると、ただ単に台詞になってしまいます。良い台詞であればあるほど素敵に表現しようと思うかもしれませんが、なるべく減らそうと努力しました。映画で表現される人生の短い瞬間というのは、人生の一部として、記憶の片鱗として残るものです。彼の人生の一部として、区切りを表現するために力を注ぎました。

――映画で「日本は階級社会」という台詞が出てきますが、同意しますか?

妻夫木聡:階級社会が存在するとは思います。ただ、以前に比べたら大分なくなっているのではないかと思いますが、僕たちが知らない世界にそのような階層というのは日本にも残っているのではないかと思います。この作品でそんな部分をきちんと表現することもかなり重要でした。監督が直視して、よく表現できたのではないかと思います。

――在日韓国人3世のイ・サンイル監督の作品「悪人」「怒り」では、特有の明るいイメージとは違う妻夫木さんの隠れた横顔を垣間見れたような気がしました。心地のいい不慣れさでした。「愚行録」まで含めてここ数年、韓国で公開される映画の中で、妻夫木さんの役は内面を詮索するキャラクターですね。

妻夫木聡:やはり人間という存在は、影というか、暗い面をみんな持っています。そのような部分を確実に直視して描こうという考えは持っていました。ただ一度そんな役を演じると、ずっとそのような役だけが入ってくるみたいです(笑)。

――妻夫木さんの俳優人生について教えてください。

妻夫木聡:20代初めは、映画という仕事に接すること自体が非常に幸せでした。20代後半に入ってから、自分が演技をしながら受けた評価に縛られました。振り返ってみると、当時は早く大人になりたかったんだと思います。30代になってみると、子供のような部分がそのまま残っていました。幼稚な部分があるからって何だ、まぁ初めからまた築いていけばいい、自分自身を流れに任せればいい、あまり大人っぽく行動しようとせずに……こんな考えがむしろ心を楽にさせました。純粋に演技するのがおもしろいです。ある意味では一生大人にならない方がよさそうです(笑)。

――「ウォーターボーイズ」(監督:矢口史靖)は2001年作ですが、今と変わりはありませんね。一貫した童顔ですね。

妻夫木聡:童顔なので、39歳なのにある程度若い役を演じることができます。演技の幅を広く持てるという長所があります。その反面、40歳を過ぎた家庭持ちの人の役はイメージが僕と合わないだろうと関係者たちが思っているからなのか、なかなか演じたことがありません。そのため大人っぽい役が演じられるように、童顔のイメージに抵抗するために髭も伸ばしています(笑)。

――ハ・ジョンウさんとは10年前の映画「ボート」(監督キム・ヨンナム)で縁を結びました。もしまた共演するなら、やってみたいジャンルがありますか?

妻夫木聡:海外で心を開くことができる友人ができたのは、ハ・ジョンウさんが初めてでした。韓国人の友達兼兄のような存在だと思います。10年が過ぎたので、10年前にはなかった顔を見せたいし、ハ・ジョンウさんはまたどんな俳優に変わったのか、僕の目で見てみたいです。一緒に演技をしたら本当にお兄さんだと思うので、兄弟の役も良いのではないかと思います。「ボート」のようなバディムービー(友人同士や仕事のパートナーなど、二人組が主人公の映画)をもう一度やってみるのも面白いのではないかと思います。

――妻夫木さんの顔には相手を和ませる、子供のように無邪気な笑顔があります。将来、しわのある俳優になっても、その笑顔だけは変わらないと思います。ファンはその笑顔に癒されます。逆に妻夫木さんを癒す存在はいますか?

妻夫木聡:(笑)「癒される」と言ってくださる方々の存在が癒しですね。俳優という職業が好きでやり続けていますが、俳優という職業を続けていく意味について悩んだことはあまりありませんでした。ただ30代になって誰のためにするのか、また何のためにするのかと思った時、頭の中をよぎるのはやはり「僕を必要とする人々のために」ということでした。僕を必要とする人たちがいることは本当に幸せで嬉しいことです。そんな雰囲気をずっと受け続けるために、この仕事をしています。

 記者 : パク・ミヨン、翻訳 : 浅野わかな