SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」

SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」様々な才能を持つマルチプレイヤーが優遇される時代だ。韓国大衆音楽界には音楽と美術の境界を崩して成功神話を築いた画家歌手は数知れない。本業である歌手の領域を越えて画家としても活動しているチョ・ヨンナムやチェ・ベクホがそうだ。伝説的なロックバンドQUEENのリードボーカルであるフレディ・マーキュリーも美術大学出身であり、公演のたびに絵をよく描いて話題になった。絵と歌は完全に違う分野だと思いがちだが、真っ白な画用紙と五線譜に自分の感情や情緒を描いていく創作活動という部分では同じだと言える。確かなのは、画家歌手たちの歌には絵画的なイメージが豊かだという事実だ。そのため、目を閉じて聞くと歌の中の風景が自然に絵として浮かび上がる彼らの音楽は特別だ。

実際、人々がアルバムを購入する時、ジャケットのデザインやカバーイメージは重要な選択の要因として作用する。ジャケットのデザインに対する認識が高い文化先進国は、随分前からジャケットのデザインを一つの芸術ジャンルとして認めている。そういう意味で、ファン・ボリョンのほとんどのアルバムは、ジャケットのアートワークに対する大衆の認識転換を喚起させる独特なイメージを盛り込んでいる。暗闇の中でも希望を捨てず、一筋の希望の光を探しながら傷だらけの世界に美徳の癒しを実践しようとする彼女の歌は、実は甘くもなくトレンドにも敏感ではない。一般大衆は難解だと思う可能性が高い、暗くて荒い質感の音楽だが、ファン・ボリョンは様々な実験的なサウンドを通じて音楽と絵の接点を求めて航海する独歩的なミュージシャンだ。大衆音楽を芸術的な境地に牽引している、韓国唯一の女性パンクミュージシャンとしての存在価値もはっきりしている。

彼女のステージを一度でも見たことがある人なら、彼女の中性的なパンクの雰囲気に好奇心を抱いたはずであり、荒くて本能的なハスキーボーカルの魅力や、空きスペースに染料を溶かすような素敵な絵画的な質感を経験しただろう。現在、韓国大衆音楽界の女性ミュージシャンの中で、音楽的に最も注目すべき創作的なアルバムを生み出している彼女の旺盛な創作の泉は、香ばしい甘露酒をこぼし出している。発表するアルバムごとに多くのメンバーが交代されるといった彼女の音楽旅は大変だったかもしれないが、芸術的な香りが振動する鮮やかな軌跡を残している。

ファン・ボリョンがリードする5人組のバンド「SMACKSOFT」は、最近RAINBOW99(ギター)、ソ・ジンシル(ドラム)、カン・ハヌル(キーボード)、シン・ジヨン(ベース)を迎え入れ、5期のラインアップを構築した。現在、彼女は次のアルバムのため、韓国大衆音楽界を超えて海外でもこれまで試みたことのない、非常に独創的で興味深い音楽の実験に突入している。3枚目のアルバムの後、「絵と音楽は何が同じで何が違うのか」についてマスコミや評壇から多くの質問を受けたため、言葉ではなく作品で答えようと決心した。すなわち、絵が一点完成したら、それを音楽に表現する“絵歌”のような作業である。

「ある形や、さらには様々な色でも音が出ると思います。絵を描く時、筆を動かしながらその動きの音を聞く瞬間、感情を伝えるある媒介物や色 感、質感を感じます」

秋頃のリリースを目標にしている次のアルバムが6枚目のフルアルバムになるか、それとも5~6曲ほどが収録されるミニアルバムになるのかはまだ未定だが、プロジェクトアルバムになる可能性が高いという。“絵歌”というテーマは決めたが具体的な題材はなく、ただ自然に描く絵と曲の流れを見て最終的にアルバムのタイトルを決める予定だ。

SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」画家であり、シンガーソングライターであるファン・ボリョンの音楽を聞いて、随分前から絵を描く彼女の姿を写真にしたいと思ってきた。そして、春の気配が多く感じられる先週末、日が暮れていく夕方にソウル蘭芝島(ナンジド)公園と彼女の作業室でその念願を叶えた。「音自体と関連した絵が2~3点ほど出るかもしれません。音楽と動画を見せてくれるVJ(ビデオジョッキー:音声と映像の番組の司会役)たちは音の強弱やメロディの流れをイメージ化して見せてくれますが、私の場合は動かない絵で見せるのでより面白いと思います。全く動かない絵から音が聞こえるなんて、本当に面白そうでしょう?」

彼女の創作方法は単純だ。意図的に曲を作るより、頭にメロディが浮かんだらそれを録音しておき、画用紙にコードを書いてアコースティックギターを弾きながら歌うという即興方法だ。「私は歌や絵を作業する時、メロディや歌詞より全体的な雰囲気を一番重視します。それから、作品に関しては長く考えますが、作業は非常に短く早い方です。作業を始めたら1~2ヶ月で楽曲制作からレコーディングまで終わらせるタイプです。曲にしても絵にしても今回の作業は寝ずに早く進めるつもりです」

現在、彼女は一緒に住んでいるペルシャ猫と自分を描いた「バウと私(仮)」という絵を完成させた状態だ。「この絵を描く時、バウが走り回って絵に足跡がつきました。猫と私が一緒に描いたことになりました(笑) 20分間で完成するような早く描きあげる絵もあれば、数年経っても完成できない絵もあります」彼女は、音楽を絵として見せられ、絵が音として聞こえる新しい実験に興味津々だ。アナログ的な“絵歌”という特性上、次のアルバムはこれまでと違ってアコースティックサウンドが主になる予定だ。「曲を作るのは音で虚空に絵を描くことだと思います。絵を描きながら筆の動きに沿って口で音を出しながら作業しています。まず、今回のアルバムは明るい雰囲気にしようと思っています。歌は暗いとよく言われていますが、絵は私自身が暗く描くことがあまり好きではありません。この間、『ゾンビ展示会』への参加依頼を受けましたが、ゾンビが好きではないので参加しないことにしました(笑) 歌は歌詞が少しでも入っているボーカル曲で、一人で作業しようと思っています。でも、もし進行が遅くなったり、雰囲気を引き出すことに無理があってRAINBOW99のギターが必要だと思ったら、彼にお願いするかもしれません。リアルにドラムが必要になったら、ソ・ジンシルが参加するかもしれないし」

ソウルで生まれたファン・ボリョンは、歌の上手い父親が歌う「荒城(ファンソン)の古跡」を聞きながら育った。彼女の父親は朝に子どもたちを起こす時、映画「サウンド・オブ・ミュージック」のLPをかけたという。小学校5年生の時、父親が転勤になり、一年間釜山(プサン)の学校に通った彼女は、父親が咸鏡北道(ハムギョンプクト)清津(チョンジン)の北朝鮮出身だったため、楽しい旧正月や秋夕(チュソク、韓国のお盆)を送ったことがない。「中学生になってソウルに上京し、姉さんたちと一緒に暮らし始めました。中学2年生の時、誕生日プレゼントでアコースティックギターをもらって音楽を始めましたが、親がうるさいと壊してしまいました。その時、『朝の露』や『夜明け道』のような曲の歌詞を日記に書いたことを覚えています」1985年、米ニューヨークに渡った15歳の彼女は、様々な事情により4回も転校した末、Rush–Henriettaシニアハイスクールを卒業した。1990年、ニューヨークのプラット大学に入学した彼女は絵画学を専攻したが、休学届けも出さずに途中で学校に行かなくなった。そして、2004年にもう一度学校に戻り、彫刻学を専攻して2007年に卒業した。

SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」ファン・ボリョンは全てのことにおいて積極的に考えるタイプではなかった。「アメリカで学校を卒業しなさいという親との約束を守ること以外、これから何をどうするかということについては具体的に考えたことがありませんでした」1990年、偶然大学の友達だったカークに出会い、デュオバンド「SUN&FISH」を結成してコピー曲を中心にニューヨークの街でストリートライブの活動を始めた。1993年、自分が通っていた大学に留学に来た後輩イ・サンウンと出会い、一緒に韓国に帰って彼女の5枚目のアルバム「someday」にフィーチャリングした。そして、1995年、イ・サンウンにとって音楽的なターニングポイントになった6枚目のアルバム「公無渡河歌」にミュージックディレクターとして参加した。だが、当時、彼女が作った文化空間「SUN&FISH」が8ヶ月間で解散し、彼女は再びアメリカに戻った。

1996年に再度、帰国した彼女はU&me blueのパン・ジュンソクの紹介で、ドラマーのキム・チェク、チェ・イムシクと一緒に3人組バンド「有力な兄貴たち」を結成し、ジャムセッション(即興演奏会)形式のアバンギャルド(芸術分野の最前線)公演を試みた。以後、弘大(ホンデ)と新村(シンチョン)を中心に本格的な音楽活動を始めた彼女は、1997年、キム・チャンワン、イ・サンウン、オオブプロジェクト、PIPI LING STOCKING、ファン・シネバンドなどと一緒にコンピレーション・アルバム「お弁当特攻隊」に参加した。1998年、1枚目のソロアルバム「耳が3つある猫」と2001年、バンドを結成して発表した2枚目の「太陽輪」の後、彼女は独特な音楽性で注目を集めたが、卒業のためにもう一度、アメリカに向かった。そして、長い空白期間を終え、もう一度、フルアルバムをリリースすることができた原動力は、アメリカにいる間、次のアルバムを出して欲しいというファンたちからのリクエストがあったからだ。当時、人生の境界を行き来する激しい苦痛を経験した彼女は、人々との関係に対して愛情が募り、いい音楽を作るために強烈なエネルギーを注ぎ込んだ。

SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」2008年、2.5枚目のアルバム「SmackSoft」で戻ってきた彼女は、2009年に3枚目のアルバム「Shines in the Dark」をリリースし、完全にカムバックした。この3枚目は彼女自身にとってはもちろん、韓国大衆音楽界にとっても祝福とも言える名盤である。収録された曲は、辛い人生で、奈落の底から這い上がってきた彼女自身に輝く救援の光となり、もう一度、夢と希望に対し考える原動力になった。また、これまで誰も盛り込むことのできなかったアートロックの世界を繰り広げ、評壇とロックマニアたちから共に賛辞を受けた。なぜなら、長い空白期間、実際に死の直前まで達した苦痛と悲しみから、自分自身を救い出した生命と希望の光を見出し、自分自身を進歩させる曲だったからだ。

3枚目のアルバムは美術と音楽の境界を漂いながら、芸術的な接点を見つけ出し始めた絵画的なイメージが優れたアルバムだ。特に興味深いのは、宣伝が足りなかった初版を完売させ、自分が描いた絵でジャケットを再構成し、再発売したという点だ。初版のジャケットの絵は、メンバーたちと仲良くなりたいと思った彼女が意図的に描いた可愛い感じのカリカチュアだった。それぞれ6つの違うアルバムに見せるようにと試みた再発売のアルバムのアートワークは、実に興味深い。収録曲「日 海 解 Go」は“太陽”を色んな意味で描いたこの時代の名曲だ。ファン・ボリョン自身が一番満足しているトラック「ため息」のオリジナルバージョンは、今後、彼女の音楽的な志向を示す典型的な曲だ。この曲は屋上に吊り下げられているハンモックに横になり、音を立てながら通り過ぎていく地下鉄や静かに流れていく雲を見て感じたことを曲にしたという。

3枚目のアルバムで、非常口のない真っ暗な闇の中ぼんやりとした救援の光を渇望する切なさを込めたとしたら、4枚目のアルバム「Mana Wind」では、人生の原動力である“夢”を夢幻的で実験的な音楽を表現し、評壇とファンからは「夢を見ているようだ」「耳で聞く神秘な体験」「音という染料で時空間のキャンバスに描ける絵だ」という賛辞を受けた。5枚目の「Follow Your Heart」は、彼女の音楽の本質であるロックスピリットを保ちながら、サウンドに対する興味深い試みを込めたアルバムだ。「夢は始まりも終わりもない、常に最初の状態だと思います。私は人々に容姿やお金以外、美しさはどんなものなのかと聞きたいです。一体、私たちは何を追及して生きているのかが分からないです。このままでは魂が底を打つはずなので、音楽をする人たちが違う部分を聞かせなければならないと思います」

SMACKSOFT ファン・ボリョン「彼女が話す絵と音楽の接点」世の中との断絶を悲しい情緒で歌った1枚目、野心的な2枚目と人生に対する悩みが世界を嫌う視線ではなく、切ない愛情に昇華された3枚目、そして、夢と希望を歌った4枚目と多彩なサウンドを実現した5枚目まで、彼女のアルバムは希望や光を探す激しい音楽の旅であるに違いない。飾った事実より真実がいつもぎこちない存在であるように、人工性が排除された生のそのままの暗い質感である彼女の音楽に違和感を覚える人もいるだろう。でも、彼女の歌はメロディを取り外すとそのまま一つの詩になり、朦朧とした幻想的なメロディは聞く人々を音への世界に旅立とうと誘惑する魅力的な音楽になる。大衆音楽の役割の中で最も重要なのは慰めだ。ファン・ボリョンの音楽は忙しくて大変な日常に疲れた現代人の悲しさと寂しさを撫でてあげる癒しの役割を果たす温かい音だ。「私はお金を目的とする芸術行為は、多分できないと思います。実は、3枚目のアルバムの時は大衆を少し意識しましたが、特に反応はありませんでした。音楽も以前は何も考えずにただやっていたのですが、今はいい音楽をやりたいというはっきりした目的があります。最終的には私の歌がみんなにとって慰めになったらいいなと思います。音楽が私に楽しさと生きる原動力のエネルギーを提供してくれるように、私の歌が多くの方々にも同じように魔法を発揮できたらいいなと思います」

◆SMACKSOFT プロフィール

2000年1期4人組:ファン・ボリョン(ボーカル、ギター)、イ・ミンジョン(ベース)、ユン・ソンフン(ギター)、ハーシー(ドラム)

2008年2期4人組:ファン・ボリョン(ボーカル、ギター)、チョン・ヒョンソ(ベース)、パク・ジョングン(ギター)、パク・ジンソン(キーボード)

2009年3期5人組:ファン・ボリョン(ボーカル、ギター)、チョン・ヒョンソ(ベース)、パク・ジョングン(ギター)、パク・ジンソン(キーボード)、キム・ホンドク(ドラム)

2010年4期5人組:ファン・ボリョン(ボーカル、ギター)、チョン・ヒョンソ(ベース)、Nick/ユン・ソンフン(ギター)、ソ・ジンシル(ドラム)、パク・ジンソン(キーボード)

2012年5期5人組:ファン・ボリョン(ボーカル、ギター)、RAINBOW99(ギター)、ソ・ジンシル(ドラム)、カン・ハヌル(キーボード)、シン・ジヨン(ベース)

◆ファン・ボリョン プロフィール

1970年2月26日生まれ

アメリカ・ニューヨーク・プレット大学 彫刻学士

1990年 ニューヨークでアメリカ人のカークとデュオバンド「SUN&FISH」を結成

1993年 文化空間「SUN&FISH」を創立

1995年 イ・サンウンの6枚目のフルアルバム「公無渡河歌」のミュージックディレクター

1996年 4人組バンド「有力な兄貴たち」のメンバー

2000年 4人組バンド「SMACKSOFT」を結成

2001年 イ・サンウンの10枚目のフルアルバムでミュージックディレクター

2008年 2.5枚目のアルバム、「カスムネットワーク」が今年のアルバムに選定

2009年 3枚目のアルバム、Webマガジン「100beat」が2000年代ベストアルバムに選定、「カスムネットワーク」が2009年ベストアルバムに選定、ハンギョレ新聞が今年のアルバムに選定

2010年 4枚目のアルバム、NAVER MUSICの今週の韓国アルバム、2010年ベスト7、大衆音楽サウンドが今年のアルバムに選定、Daum Musicが2010年今年のアルバムに選定、Webマガジン「WEIV」が今年のアルバムに選定

2012年 5枚目のアルバム、NAVER MUSICの今週の韓国アルバム、Daum Musicの今月のアルバム、2012年ベストアルバム、Webマガジン「WEIV」が2012年ベストアルバムに選定